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昭和歌謡大全集,半島を出よ(上・下)

村上龍の著作。

村上氏の作品は読んだことがなかったのだが、面白いから読んでみてはと勧められたのが「半島を出よ」
で、冒頭を読み始めた所で貸してくれた知人に登場人物の事を聞くと"以前の村上作品に出てたキャラクターなんですよ"と。
じゃぁ、って事で前作というのを借りた。それが「昭和歌謡大全集」

昭和~は"え?この人こういう作品書くのか"って感想。
作風が、じゃなく筒井康隆っぽい無茶苦茶な表現があったからだったのだが。
そして一転、半島を~は少し真面目というか。
そらぁ前作から10年経ての作品だから違いは大きいわな。

以下の文面を先に書いてしまったのだが・・・ケツを纏められないので大まかな感想を書く。
昭和~に関しては非常にコンパクトにまとめられていて読んでいてもスムースだった。
が、半島~は少しクドかった。
確かに人物像を描く上で必要なサイドストーリーは多い。
でもあまり多すぎると読んでる最中に萎えてしまう。
最初は真面目に出てくる人の名前を一つずつ追って頭に入れようとしていたが、以後全く関係ない人名も多く、それだけで疲れてしまった。(読み飛ばす事もしばしば・・・)
自分のレポートや知人の論文などを書いてた事があるが、同じ技法を使っていた記憶がある。
文字数を稼ぐ、というやつで、略語を正式に書くとかどういう感じ。
コンビニだと4字だがコンビニエンス・ストアだと11字。みたいな。
登場人物の「イシハラ」ですら「石原」とすれば半減するのである。(まぁ人名はカナの方がこの作品にはフィットする気がするけど。)
もっと校正すりゃ1冊になる気がする。そんな作品であった。
この2冊を読むのに1ヶ月かかった。



【昭和歌謡大全集】
章ごとに昭和の代表的な曲名を配しているからこの作品名だろう。
人と付き合う事が下手なアラサー男達が主人公。
特に昔から付き合いがあるとかそういう訳じゃなく、何となく集まったという感じ。
彼らは酒盛りをするのだが、その情景が「酒盛りしなさい、と言われた原始人」のようで滑稽。

学生とかで好きや嫌いに関わらず我慢も多少しながら人間関係を築いた人(私も含む)からすれば、酒盛りするとなれば集まるメンツで何を誰がするというのはおおよそ見当がつくし、それぞれに役割を無難にこなすものだが、彼らはそういう経験が全く無い。 ゆえに滑稽。

酒を飲むと彼らはジャンケンを始める。月に一度集まるのはそのためだとも言える。
ジャンケンで役割を決めて誰のためでもない自分のためのコンサートをするのだ。
テーマとなる曲は章ごとの昭和歌謡。歌い手に扮した衣装を着る主役とバックコーラス、照明係やカメラマンを決めて、人気のない海でコンサートをし、録画する。
それだけが唯一の楽しみとしているヤロウ共だったが、メンツのうちの一人が街で女性を通り魔的に殺してしまう。
殺されたのはミドリという女性。その女性は「ミドリ会」なるミドリという名前の女性ばかりが集まったオバサン集団。彼女らは容疑者への報復を誓い動き出す。

【半島を出よ】
男達とミドリ会との戦いは当初からのメンバーであるノブエとイシハラの二人を残して全滅する。
その戦いから数年・・・2010年、ノブエは東京でホームレスをしていた。
この頃の日本と言えば経済的に疲弊し始めていたが、味方だと思っていたアメリカから救いの手を差し伸べられず親米路線から離れていっていた。(当のアメリカも経済的な打撃を受けていた事もある。)
世界的に孤立無援の国となっていた。

ノブエは相変わらず心を開く事をせず、また他人へ迎合する事を不快としながら公園でブルーシートのテントを作って過ごしていた。
類は友を呼ぶ、その言葉通りに彼らの元には鬱屈した生活の果てに疲れてしまった少年が集まった。
タテノという少年はブーメランをうまく使う少年で、自ら金属を研いで作り、標的を切り裂いたりする事ができた。 だが決して自分からそれを見せて人の気を引こうとはしなかった。
ノブエはイシハラを頼って福岡に行ってみろ、と勧めた。

一方イシハラは福岡で詩人として小規模ながら名を馳せ、細々と暮らす。
福岡市が大規模開発をしようとしていたエリアだったのだが経済事情で頓挫してしまい、ゴーストタウンとなった場所のコンテナを安く買い上げて住まいを確保していた。
彼の下にはノブエからの紹介を受けた者だけでなく、数人の少年達が集まっていた。
同様に不器用で、体制や大人たちに迎合できず、他の少年ともうまく付き合えなかった。

そんな中、北朝鮮ではある計画が進んでいた。 日本への侵略である。
北朝鮮は対米親和の路線を取って核査察受け入れなどをしていたが、その一方、水面下で経済的に疲弊し、世界から孤立しはじめた日本を何とか奪えないかと画策していた。
そして、作戦は決行される。作戦名は「半島を出よ」
北朝鮮から5人の特殊戦部隊員が隠密に派遣され、オープン戦で賑わう福岡ドームを占拠する。
彼らは北朝鮮を捨て福岡にやってきた反乱軍だと宣言する。
この北朝鮮の作戦というのが非常にリアルで、本当に5~6年前の著作かと疑ってしまう。
今の状況に酷似する点もあったりして興味深い。

後を追うように500人の兵達が福岡へ空を飛んでやってくる。
これに対し、日本政府は福岡を封鎖する事しかできなかった。
東京を攻撃される事を恐れ、北朝鮮軍を福岡から出られなくする事しか頭になかった。
封鎖された福岡で北朝鮮軍は福岡を統治する事となる。
「侵略したのではない。我々と共にこの福岡に本当の楽園を作るのだ!」

福岡封鎖により、福岡市は日本から捨てられたと感じざるを得ず、福岡市民たちは徐々に北朝鮮軍へ肩入れをしていく。いや、せざるを得なかった。生きるためには。
この辺りの「東京と地方の温度差」の表現は非常に面白い。
マスコミ報道を通じて政界にある温度差をも表現していて、それは現在とも何ら変わりはないであろう確かな裏づけがあることを感じる。

さらには後詰に特殊戦部隊員12万人が大小の艦船で北朝鮮を出航した。
12万人の北朝鮮軍が日本へ入国するともう手の施しようがない。
中国・韓国は武装解除すれば大使館機能を復帰すると名言し、アメリカですら福岡港の輸出による経済打撃を軽減する意味でもやぶさかでないと言う。
北朝鮮で反乱した難民なのだから攻撃はできない。福岡ドームでも死者が出ていないから侵略と受け取れず在日米軍も手出しができない。(というかするつもりはない)

そんな中、イシハラと共に暮らす少年達は歓喜した。
彼らは今まで"少数派"に属しており、"多数派"に迎合する事をよしとしなかった。
少数の北朝鮮軍が日本という国を揺るがしているのだ。喜ばずには居られない。
彼らは北朝鮮軍に加担してテロを起こそう!と大喜びするが・・・イシハラは考えろと少年達に告げる。
反乱軍だと言っているが明らかな侵略であり、福岡を守らなくてどうするのか、と。

ここから昭和~と同じく今まで人の気持ちに触れず想像しようともしなかった少年達が自分の頭で考え、持てる能力を発揮して北朝鮮軍と戦いを始める事になる。
by shivaryu | 2010-02-06 18:43 | 読書